「ジムって、いつもカレンしょってるのな。」

ふと生まれた声に、青年はゆるりと視線を動かした。











「what?どうした十代。」

隣でぷひぷひと寝息を立てるワニのカレンを撫でながら、声の主に尋ねる。



漆黒の髪、トレードマークのテンガロンハットがよく似合って。

ウェスタン調の服が、ほどよく整った体躯を包む。

濃い碧の瞳は優しく緩められ、精悍な表情を柔和に彩る。

ジム・クロコダイル・クック。サウス校のチャンピオンであり、このデュエルアカデミアへ留学してきた

学生の一人だ。



いっぽう、カレンと同じように床にごろんと横になっている声の主。

燃えるようなオシリスレッドの制服。明るい茶色の髪。

鳶色の眼は大きく、童顔な顔をさらに幼く仕上げている。

デュエルアカデミアの風雲児、遊城十代だ。





「いやー、ジムとカレンっていっつも一緒だよな〜っておもってさ。」

うつ伏せで頬杖をついて、青年を見上げる十代。

その表情には、恨めしいとも羨ましいとも取れそうな…もやもやとした色が含まれていた。





「オフコース、カレンは俺の大事な家族だからな。」

慈しみの目で家族を見やるジム。

何処に行くときも一緒、食事や眠る時だって一緒。

いついかなるときも共に過ごす徹底振り、愛ゆえの同調。

家族がゆえに生まれる絆、他者には築くことの出来ない一辺倒なつながり。



恋や愛とは質の違う絆、解けないほどにきつく結ばれた紐同士。







『大事な家族』

この言葉が、十代のこころをもやもやたらしめていた。







カレンと十代と、ジムの距離はさほど変わらない。

お互いに青年を挟んでごろんと横になっているために、50センチと離れてはいないだろう。

だのに、そこには大きな開きがある、と少年は強く感じていた

こんなに近くにいるのに、彼女との差は大きく眼前に広がっている。



物理的問題では解決できない、メンタルの深い部分にある隔たり。

想いだけでは対抗できない固い固い絆の紐。

割り入る隙は果たしてあるのか。



しりたい、その絆には介在の余地はあるのか。







「…なあ、ジム。俺もおぶってくれないか?」







もしもカレンのようにその背に背負われてみれば。

その一辺倒な絆の短い先を掴めるような気がして。



気がつけば、そんな風に口走っていた。







「…?what…、本当にどうしたんだ?今日のユーの言動はいつにも増してストレンジだ。」

「『いつにも増して』は余計だっての!いいじゃんかよ〜いつもカレンばっか!」

じたじたとわざとらしくごねてみる。

…本心は気取られたくなくて、なるべくに明るく、なるべくに無邪気に。

隣でカレンがへぷし、と鼻を鳴らした。









床にごろんと転がって駄々をこねる十代を見ながら、ジムは静かに思いをめぐらせていた。



十代。君は気づいていないだろう、先刻伏せた目がひどく切なげだったのを。

どんなに無邪気に振舞っても、あの切なさはもう隠せない。

一体何を考えていたのか、何に憂えていたのか。



気取られないようにと明るい仕草で取り繕ったところでもう後の祭り。

逆にそのわざとらしい切り替えさえ愛しさの一欠片。

肝腎なところで本音を隠すその意地が、たまらなく可愛らしい。

自分の前でそんな風に意地を張られて、取り繕われてしまったなら。

頑なに隠そうとするものがなんなのか、気になってしょうがないじゃないか。





小さな声で「ソーリー、カレン。」と呟くジム。

片時も離さなかったその手を、ゆっくりと離した。



彼女を起こさないようにじっと立ち上がると、くるりと背を向ける。









「カモン、十代。」









振り返りざまのウィンクが、どれだけキザで芝居がかっていたか。

あんぐりと口を開けて、図らずも見惚れる十代だった。



カモン、といったということは、まさにその背におぶってくれるということだろう。

思いつきで口に出した言葉、まさか現実のものになるなど思いもしない。

思考停止で微動だにしない少年を促すように、かがんで高さをあわせるジム。





「hurry、カレンが起きてしまう。」

何も知らずにまだ眠るカレンを見ながら、声で急かす。

彼女とて、そうやすやすと家族の背を明け渡してくれるとは思えない。

ならば寝ている間にすきあらば。というわけだろう。



…なんだか、鬼の居ぬ間に洗濯、昼間の主婦にいたずらしちゃう間男みたいだな…、と一人ごちた。







おずおずとその広い背に、体を預ける。

中肉のイメージがあったが、実際に触れてみればその背筋は強く筋肉質だった。

伝わる熱、肌の匂い。いつもよりも強く「ジム・クロコダイル・クック」という人間を感じる。

一度それと意識してしまったら、もう全然駄目で。

顔どころか全身がぽっぽと火照って恥ずかしくなる。



対するジムときたら飄々としたもので。

普段重量級のカレンを背負っている彼にすれば、十代なんて羽根のようなもの。

膝の裏を浚って、軽々と背中にのせて立ち上がった。





十代の視界が、大きく変わる。

普段見たことのない高さの景色が、眼前を鮮やかに彩っていく。







「わっ!おまえ…っ急にっ」

「軽いな、ベリーライトだ。」

くるりと回りながら、慌てる十代に笑いかけるジム。

回転する視界が、いつもよりもずいぶんと高い。もちろん、与えられる視野情報も倍以上だ。

新しい視覚情報の多さに頭が軽く酔っ払う。





「タンマタンマ!よ、酔う…っ」

静止を呼びかけてぎゅうとつよく抱きつく。

首回りに強く回される腕に、いたずら心にも火がつく。

嫌がる十代を何度か回して、漸くに静止。

ぐるんぐるんと大きく振り回されたせいか少年は小さく「うぇ…」と喉を鳴らした。







「くそ〜っ、止まれって言ったじゃんかよ!」

「ソーリー、十代。」

口元を押さえて悪態をつく十代にハハハと笑う。

首筋に揺れる茶色の髪がくすぐったい。



背中に触れるのは同じ体温を持つ十代。それはカレンにはないもの。

仄かなぬくもりに、背中が少しずつ温まるのを覚えながらジムは思索にふける。

彼がおぶられたいと言い始めたのは、きっと彼女に何かしらの対抗心を抱いただめだろう。

カレンがカレン以外の何者でないのと同じように、十代も十代でしかないと言うのに。

張り合って、憂いて。まるでやきもちだ。



もし、彼がやきもちを妬いているとしたら。

それ以上に嬉しいことはない。何物にも変えがたいほどに愛おしい。

愛おしいと思うほどに、自分は彼に執着している。



はたして、背負われてみて当の彼は何か分かっただろうか。









「で、ジャストナウ。何か分かったかい?」

欲に負けて尋ねてみるジム。

ぴくり、と少年は顕著に反応した。



「……なんだよ、気付いてたのか。」

むすくれながら小さく声を出す十代。

考えを読まれていたようで、何だか悔しい。

両肩を掴んで、ぐーんと背伸びをする。

思いがけない後方への加重に、しっかりとジムは踏ん張った。

さかさまになった世界をみながら、思考を検めてみる。







――――――背負われて分かったことといえば。



視界は良好、背中は筋肉質。

回転すると遠心力で目が回り、何かいい匂いがする。

快適だが、どこかやはり異質。

背中の筋肉一つとっても、彼女のためについたものだ。

全体的に平たいその筋肉は自分を受け止めるものではない。



ひどく羨ましいが、ここは自分の居場所ではない。

くやしきかな、ここはカレンの居場所だ。

一辺倒な絆の端はここにはない。





ただただ、自分と彼女の違いを見せ付けられただけだった。







「ん〜…やっぱわかんねえや!ジム、サンキュな。」

笑っておろしてくれという十代。声は少し力ない。

ジムは、そんな少年をゆっくりと地面へと下ろした。



んーっと伸びをしてもう一度小さく「わかんねえや…」と呟く姿は。

いつも明るい彼の中に、切なさを落としていく。







小さな背中に、とめどなく愛おしさがあふれ出す。

そんな切なげな後姿を見せずとも。

カレンとはまったく違う形で、愛しているというのに。



抱きしめて、キスをして。

「I love you」と何度だって伝えてやりたくなる。

抑えられない衝動、行動で示したい。







「ヘィ、十代。ユーの居場所はこっちだろう?」



言うが早いか、青年はその小さな体を抱き上げた。







視界が再び高くなる。

今度はただの景色ではない。目の前に広がるのは優しい笑みの青年の顔。

まっすぐに、吸い込まれそうなほど碧い瞳に惹きこまれる。

眼の中に映った自分の姿は、ひどく驚いているのに気付いた。





「ほら、こっちの方がいい。」

頬を優しく摺り寄せて、クスリと頬笑む。





「ばっ…!」

爆発したように顔が真っ赤になる十代。

あまりにもドラマティック、あまりにも大胆不敵。

触れた頬が柔らかくて、撫でる吐息が熱くて。

考え思い悩んでいたことがだんだんばからしくなってくる。



こんな風に抱き寄せられて、頬を擦られて。

背中におぶられたカレンには真似のできないこと。

このときだけは己に向けられる、一辺倒な愛。







「Love U. 十代。」

惜しげもなく告白するジム。

瞳には真剣な色が宿り、薄く微笑む頬は慈しみとも取れるような優しさにあふれていた。

ストレートに、正直に。

ぶつけられる感情が、嬉しくないわけがない。





「うっわなんだよそれキッザだな〜!……でも、俺も好きだ、ぜ?」

はにかんで笑いながら、少年は告白に応える。

応えに、ジムの頬がさらに緩む。







そして、互い示し合わせることなく。

自然に、ゆっくりと。

互いの唇を重ねるのだった。














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よし!おわり!

ジム十おいしいです!でもジムも十代さんも難しいですorz

ああ、もっともっと文才が欲しい…。

楽しんでいただければ何よりでっす!