*クロウ夢SS。お嬢様夢キャラでほのぼのな2人。夢キャラ名前は(かや)ちゃんです。






鉄砲玉とお嬢様





早急に届ける様に、と執拗に念押しされた荷物を渡されるクロウ。漆黒色の車体が太陽の光を吸収しより一層闇の輝きを放つDホイール【ブラック・バード】に跨り

調整を終えたばかりのご機嫌なエンジンが軽快な音を響かせシティ中心部へと疾走してゆく。

仕事をしないジャックの分まで稼がなくてはならぬ厳しい現実とは裏腹に、心地良い風が頬を掠めていく感覚はいつだってクロウの気分を爽快にさせてくれる

配達が終わったら、喉越しのいい炭酸ジュースを買って一息入れよう、そう心に決めアクセルを吹かせばスピードは更に上がり目的地まであともう少し。



住宅街に入ると通行人が増えて危ないので、ややスピードを緩めモニターに映る地図を頼りに街路樹の木々から射す木漏れ日が点々と道路に描かれる道を進むと

配達先の家を探すクロウの視線を捉えた大きな屋敷―――世の中にはこんな豪勢な家で暮らすセレブな人間もいるんだなと感慨深く思いながら通り過ぎようとした時、

地図に記されている配達先と目の前の屋敷が一致するのに気付いた彼が慌てて引き返し道路脇に止めたDホイールにロックを掛けてから荷物を持ち

城壁を思わせる高い塀を眺めつつ、少し緊張する気を抑えながらインターホンを押した。



配達の旨を簡潔に伝えれば、赤いランプが灯されたご大層な監視カメラの視線と使用人らしき声。相手の頑なな口調から察するに、自分の顔に刻まれたマーカーが気懸りで仕方ないのだろう。

確かにサテライト出身者は武骨な見た目も宛ら物騒な輩も多いけれど、日々汗水流して労働に励む真面目な人間だって存在する事も知っていてほしいと願わずにはいられない。

躊躇する使用人に対して、怪訝な対応など慣れきってしまっているクロウとしてはさっさと荷物を受け取ってくれよと眉間に皺を寄せるだけだ。

兎にも角にも、受け取りのサインだけは貰わねばこちらも帰れない…中々屋敷から出てこない使用人の対応に苛々を募らせるクロウが荷物を受け取れ!と叫ぼうとした時、

彼の視界を捉えた二階のバルコニーから身を乗り出す少女の姿―――見上げるクロウと少女の視線が交錯し、彼女の切り揃えられた前髪と長い黒髪は艶やかな烏色を思わせ、

照りつける太陽を浴びてキラキラ光る少女の髪がしなやかに揺れるのを惚けた表情で見つめるクロウ。すると、清涼感を伴う涼やかな声が上から降りかかってきた。



「配達の方、ですよね?いま門を開けますから少しお待ち下さいな」

「あ、ああ…」



惚けてしまっている彼が気付いた時には暫くすると頑なに閉ざされた正門が重たい金属音と共に開かれ、二階から降りてきた少女がぱたぱたと小走りにこちらへと駆け寄ってくる

少し息を切らせた少女の肩からずれ落ちた黒のストールから覘く透き通るような白い肌――クリーム色のワンピースと黒ストールに映える白は

より一層艶やかさを織成していて思わず目を逸らすクロウが狼狽気味に抱えていた荷物を彼女へと手渡す。



「配達ご苦労様です。お待たせして本当にごめんなさい」

「別に構わねーよ。それに態々降りて来てくれてありがとな!荷物の受け取りサイン、貰ってもいいいか?」



差し出された紙とペンに受取りのサインをする少女が綴る文字は几帳面でありながら綺麗で奥ゆかしい。

と書かれた名を見て偶然にも彼女の名を知る機会を与えられたがもう二度と会う事もないだろうセレブお嬢様のサインを上着のポケットに仕舞い込み、

片手を上げ立ち去ろうとするクロウをが呼びとめた。



「よっしゃこれにて任務完了!じゃーな、お嬢さん」

「あの、よろしければ中でお茶でも如何でしょう?お待たせしたお詫びもまだですし…」

「お詫びとか要らねえって!あんたが気に病む事じゃねーから」

「お願いします…少しだけお時間いただけませんか?」



大きな瞳に見つめられ、どうにも断り難い状況を前に口籠るクロウが小さく頷けば柔らかな微笑みではにかむの笑顔が眩しくて堪らない。

一体どうして、お金持ちのお嬢様とお茶をしなければならないのか…微かな溜息を零しつつ案内された庭先のテラスは想像以上に広い空間で

緑豊かな芝生と美しく咲き誇る花々は丹念に手入れされた人工的な美麗さを誇っていたけれど、サテライト育ちのクロウには余り居心地の良い空間とは呼べなかった。

大理石の石畳を歩き、添え付けてある椅子に座るよう勧められ戸惑うクロウを尻目に優雅な仕草で椅子に腰掛ける少女。

それに続いて彼も椅子に座るとトレイを持った使用人が飲み物と焼き立てのビスケットを用意してくれた。



透明なグラスを満たす紅茶は氷で冷やされており、仄かに香るグレープフルーツの香りがクロウの鼻腔を擽る。

カフェ等でよく女子達が好んで飲んでいるフレーバーティーという代物だろうか…曖昧な記憶は当てにならないので、喉の渇きに逆らう事のないまま

アイスティーを半分程飲みスッキリとした味わいを堪能し一息吐いたところでという少女へと何気ない質問を告げた。



「しっかし、初対面の男とお茶なんて…あんた変わった子だよな」

「私、小さな頃から病弱で家の者以外と余り話をした事がなくて…それに初対面という訳じゃないんです」

「え?オレ達どっかで逢ってたのか!?」

「…二階のバルコニーから、ハイウェイが見えるでしょう。時折走る漆黒のDホイールが気になっていたんです。貴方、だっだんですね」



ハイウェイからいつも自分を見ていたという事実はクロウにとって大きな衝撃を与え、動揺を露わにする彼へと微笑むが耳元に手をかけて静かにアイスティーを飲む。

ただ紅茶を飲んでいるだけだというのに、優雅で可憐な仕草はとても美しかった。

透明なグラスから奏でられる透き通る氷がカラン、と鳴る音と涼やかなの声を耳の奥で聞きながら、驚きを隠せぬクロウが己の髪をくしゃりと掻いて彼女を見遣る



「ブラックバードならオレのDホイールだけどよ…金持ちなお嬢さんが気に留めてくれるとは思わなかったぜ」

「ハイウェイが出来てから、幾つものDホイール達を此処から見ていました。特に私の目を捉えたのが、漆黒のDホイール…ブラックバードだったんです」



素敵な色ですよね、とにっこりと微笑むの柔らかな笑みは年頃の女子と全く縁の無い人生(仲間の龍可とアキは除く)を送ってきたクロウにとって

胸を熱くさせる感覚は彼に動揺させるばかりで、あたふたと忙しない仕草で彼女から視線を逸らし無意識の内に手が伸びていた焼き立てのビスケットを一つ、

無理やり口に詰め込んで残りの紅茶を一気に飲み干す。

(一体、オレは何をうろたえてんだ!は、単にブラックバードを見てただけだってのに!)



ストローの大きな音を立てて紅茶を飲み干すクロウの慌てぶりを見たがくすくすと肩を揺らす。

その振動で、またも肩から黒ストールがずり落ちて見え隠れする白い素肌は日焼けした自分の武骨な肌と違い、少女の肌は陶器を思わせる程に透き通る様な白さで。

それは互いの生活感の違いを垣間見てしまう瞬間でもある…という少女の名前を知り、少しの時間を共有した一時の戯れ――――さあ、現実に戻る時間だ。

腰を上げたクロウがお茶ご馳走さん、と告げて立ち去ろうとするがまたもの声が彼の動きを静止させた。



「待ってください…!」

「配達が終わればオレの仕事は完了だ。それとも、まだ何か用があんのか?」

「ご、ご迷惑かもしれませんが…貴方のブラック・バード、見せていただけませんか?」

「そんなのお安い御用だぜ!オレのDホイールでよければ見ても構わねえよ」



不安そうに俯きながら瞳を揺らすを見ていると、どうにもくすぐったくて堪らずペイントの様に描かれたマーカーに沿って顔を掻く彼の頬が薄紅色を帯びてゆく。

お茶をご馳走になった礼もある、そして目の前の少女が語る願望を叶えられるのは自分だけなのだ。威勢の良く快諾したクロウが屋敷の門前へと停めてあるDホイールの元へと彼女を連れ歩く。

遊星やジャックと比べると些か…否、かなり背丈の低いクロウだが自分の3歩後を着いてくるの身長はクロウの肩程で淑やかな雰囲気と同じでとても小柄な少女だった。

ロックの外れた正門を潜った途端、唐突にが走りだすので少し驚いたクロウが思わず足を止めれば彼女が引き寄せられていった物は勿論、クロウのブラック・バード。

きゅ、と握り締めた拳を胸に当てたの思いを汲んだクロウが笑顔で頷くと、拳を解いた彼女の指先が漆黒のボディへと伸び、憧れていたブラックバードと初めて触れ合う。



「こいつがオレ様自慢のDホイール、『ブラック・バード』だぜ!カッコいいだろ?」

「これがブラック・バード…遠くで見るより、触れられる距離で見るととっても素敵ですね」

「あんた本当にコイツが好きなんだな。―――良かったら後ろ乗っけてやろうか?走るとすっげー風を感じて最高なんだ!」

「―――…ごめんなさい。私、今日は屋敷から出られなくて。折角お誘いなのに…」



軽快なクロウの口調とは対照的なの表情が徐々に曇ってゆき、ブラックバードから手を話す彼女が申し訳なさそうな表情を浮かべているので

慌てたクロウが身ぶり手ぶりで気にするな!と元気溌剌といった声で俯くと視線を合わせ太陽のように明るい彼の笑顔は天高く空を仰ぐ向日葵を思わせ、

自分はそれに引き寄せられる蝶みたいだとは思った。いつも遠くから見ているだけだった人―――今日お話ししたばかりなのに明るく優しくて、

そして元気を与えてくれるクロウを見つめながら、の表情も次第に和らいでいくのがわかった。



「気にすんなって。もし乗りたくなったらいつでも呼んでくれよ!このクロウ様が何処からでも飛んで来てやるからな!」

「嬉しい…いつかきっと乗せて下さいね。クロウ様、今日はありがとうございました」

「クロウって呼んでくれって。オレもあんたの事「」って呼ぶからさ」

「そうなのですか?敬愛を込めてクロウ様とお呼びしたかったのですが…ご迷惑でしょうか…」

「Σちょ、迷惑とかじゃなくて!サテライト出身のオレなんか様付けしたって意味なんかねーっつうか…」

「身分や出身など関係ありません。お話したのはほんの僅かな時間でしたが、クロウ様は私にとって素敵な殿方です」



儚い雰囲気を持つ小柄な少女だが、相手に伝えたい事はハッキリと口に出す性質なのだろう。今日初めて出会いお茶を飲み、その数十分共に過ごしただけなのに

真っ直ぐ純真な瞳でクロウの事を素敵だと言われるこちらとしては照れが込み上げてくるばかりだ。クロウ様と呼ばれ何だか背中がムズ痒い気分になるのは矢張り不慣れなせいだろう。

元マネージャーである狭霧深影からアトラス様と呼ばれ続けるジャックを思い出すも、彼は所謂ところ奇人変人の枠にいる人種なので何ら参考にもならず苦悩するクロウ。

クロウは元キングでもジャックでも無い――呼び捨ててくれと何度か頼んだが、頑なな少女の決意を曲げる事など敵わず、渋々クロウ様と呼ばれる事を承諾する事となった。

薄暗い夕暮れ刻、屋敷を去るクロウをいつまでも見送っている少女の姿はやがて見えなくなってゆく。二の腕を掠めてゆく風は少し冷たさを含んでいて、

夜を告げる曖昧な空気がクロウとブラックバードを包み込んでいった―――――





*クロウと夢キャラ出会い話でした!クロウの口調が難しかった^^;
彼とは性格が真逆のお嬢様キャラが似合いそうな気がしたので思いきって書いてみましたv